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湖西たより

湖西たより【2】

今年の干支(えと)は「亥」。
イノシシの歳を迎えて

十二支の最後を締めくくるのが、猪突猛進、荒ぶるイノシシであるのは面白い。

すばしこいネズミを筆頭に、人々は本来無関係だった干支に十二種の動物を当てて、馴染みやすくしたのは、なかなかの工夫といえよう。その順番に関して、いろいろ面白い説話を作り出しているのも楽しい。

猪突猛進、イノシシ

ところで、最近イノシシの被害が激しくなっていて、私の故郷・和気でも、電気柵を設置して、被害防止に躍起になっているが、先方様の方がなかなかのもので、完全に食い止めることは難しい。それに、鹿、野ウサギ、カメ、タヌキ、カラスとご同類がこぞって現れるに至っては、とても対応しきれない状況である。

イノシシの好物は、第一がミミズ。あの図体で小さいミミズを漁る姿は想像するだに滑稽だが、これが水田のあぜをつぶし、農道を崩すのだからやっかいである。

次が、タケノコ。最近は、我が家の荒れた畑に進入した真竹もタケノコの姿を見ることがなくなった。その代わり、大きな穴が各所にあいて、うっかり歩こうものなら、捻挫をしかねない。その他、地下茎、果実、タケノコなどを食べる草食性でありながら、昆虫類、サワガニ、ヘビなどの肉類も季節の変化に応じて食べるらしい。

まれに鳥類やウサギなども捕えるというから、人間並みの豊かな食生活といえそうだし、見方を変えれば、生きる手だてを完璧に備えた動物ともいえよう。

戦後、肥料不足を補うため、近所の養豚農家にブタの糞尿を分けてもらいに通った時期がある。頑丈な豚小屋が鼻でこじ開けられ(必ず下からもくる)、逃げ出したブタを追いかけ回しても捕まえ所がなく、野良中かけずり回ったことを思い出す。

ブタこそ、イノシシから人間が作り出した新種。イノシシの習性はちゃんと保存されているのである。そのブタとイノシシが交配されたのがイノブタ。

野生と多産がマッチして、さらにイノシシとの交配が起こりイノシシの増殖に拍車をかけているとか。自然の進化の過程に人間が手を加えた結果が、自然の進化をあらぬ方向に向かわせる危険を知らされるのである。

イノブタ

ところで、イノシシといえば、猪鍋。猪肉を薄切りにし、牡丹の花に似せて皿の上に盛りつけることからボタン鍋というようになったという説もあるが、肉食が禁忌とされた仏教伝来後も、「山鯨」と詐称して、平安京の貴族達も珍重したのだから食い気の前には、堕地獄の恐怖を言葉の魔法で麻痺させる工夫もしたのである。

馬肉の「さくら」、鹿肉の「もみじ」など涙ぐましいではないか。

寒い比叡平。店の一軒もない山中の団地では、あり合わせの食材をごった煮する鍋は、冬に欠かせぬ料理。庭の残余にわずかに作っている水菜で緑を添える我が家の食卓には、ボタン鍋は登場しそうにもない。

山鯨狸もろとも吊られけり 石田 波郷

猪鍋や薄墨色に外暮れて 遠藤 正年

次回は、古典の中のイノシシをみてみたい。

平成19年1月16日 記

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