みんなの広場
湖西たより

皆様おそろいで新しい年をお迎えのことでしょう。旧年中は、格別のご芳情を賜りありがとうございました。

私ども、おかげさまで比叡山の中腹で静かな新年を迎えています。

遙か湖西の地から皆様の一層のご健勝とご多幸をお祈りし、かわらぬご厚誼をお願いいたします。

平成1９年　元旦
万代　勉・玲子

比叡山の中腹、琵琶湖を見下ろす地に移り住んで８ヶ月、どこへ住んでもそこをふるさとと思えば、また新しい愛着を覚えるもの。実は私の生涯は、まさに流転そのものであった。

和気→広島→笠岡（結婚）→岡山→和気→鴨方→和気→�P戸→東岡山→岡山（新築）→和気→大津、書き上げてみて自分でも驚く遍歴の後である。

そして、辿り着いたのが「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人なり」（奥の細道）と喝破した芭蕉が、どうしもそこを墓所としなくては納まらなかった義仲寺も近いここ大津であることに、宿運の不思議さを覚えるのである。

私は、卒論で「平家物語」の「維盛」にとりつかれて以来、この物語と心情的には生涯を共にして来たように思う。

今の住処は、比叡山風致地区、１キロ南に歩けば、園城寺風致地区、この二寺が歴史を通して抗争を繰り返し、源平合戦の帰趨をも左右してきたことを思えば、まこと国文学の学徒として、これほど興奮を覚える土地はないであろう。

「さゞ浪や志賀のみやこはあれにしをむかしながらの山ざくらかな」

「故郷　花といへる心をよみ侍ける」

の題詞で残された平忠盛の遺言とも言える一首は、平家滅亡後のことゆえ、「よみ人しらず」として千載和歌集に載ることになった。千載和歌集の編纂がもう五年早かったら、当然忠盛の名が記されたであろうに。しかし、歌はこうした俗世の出来事とかかわりなく、厳然と存在し、その歌が、はかなく滅んでいった平家の公達の優雅な生を語ってくれるのである。

古代、中世、近世、過ぎこし歴史の後を重層的にとどめるこの地に生涯の終着点を見出すことができたえにしを大切にして、ここを原点として、知研・岡山のみなさんに世迷言を、お送りしてみたいと思っている。

生来、遅筆、怠惰、どこまで続くかはわからぬこと。泊まってしまったらご容赦を。

２００７年１月１日　記